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京都地方裁判所 昭和59年(ワ)1477号 判決

主文

一、原告らの請求をいずれも棄却する。

二、訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告の昭和五九年六月二二日の定時株主総会における次の決議を取り消す。

(一)  貸切バス営業(一般貸切旅客自動車運送事業)全部を譲渡する旨の決議(第一事件)

(二)  第二六期(昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三一日まで)の営業報告書、貸借対照表、損益計算書、欠損金処理案を承認する旨の決議(第二事件)

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

1. 原告らの本件訴えをいずれも却下する。

2. 訴訟費用は原告らの負担とする。

(本案の答弁)

主文同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 当事者

(一)  原告らは、別紙株主明細表記載の株式を有する被告会社の株主である。

(二)  被告は、一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事業)及び一般貸切旅客自動車運送事業(貸切バス事業)等を業とする会社であり、資本の額三五〇〇万円、発行済株式総数七万株(一般の金額五〇〇円)である。

2. 株主総会決議

被告は、昭和五九年六月二二日、京都市左京区一乗寺宮ノ東町四五番地所在の被告会社本店において、第二六期定時株主総会(以下「本件総会」という。)を開催し、左の決議をなした。

(一)  貸切バス営業(一般貸切旅客自動車運送事業)全部を譲渡する旨(第三号議案)の決議(以下「第一決議」という。)

(二)  第二六期(昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三一日までの事業年度)の営業報告書、貸借対照表、損益計算書、欠損金処理案を承認する旨の決議(以下、「第二決議」という。)

3. 第一、第二決議取消事由

本件総会の招集手続及び決議の方法等には、第一決議につき後記(一)ないし(五)の、第二決議につき後記(一)の、それぞれ瑕疵が存する。

(一)  商法二三二条一項違反

(1) 被告は、原告ら株主に対し、昭和五九年六月八日に本件総会の招集通知を発したが、会日が同年六月二二日であるから、会日と発信の日を除いて中に満一三日しかない。

(2) よって、右招集通知は商法二三二条一項に違反する。

(二)  商法二四五条二項違反

(1) 被告は、タクシー事業と貸切バス事業を主たる目的とする会社であるが、貸切バス事業部門の方が収益率が高く、貸切バス事業部門は被告の営業の重要な一部である。

(2) 被告の発した昭和五九年六月八日付け本件総会招集通知には、第一決議に関し会議の目的事項として「第三号議案・貸切バス営業権(一般貸切旅客自動車運送事業)全部の譲渡に関する件。」と記載されているだけであり、その要領の記載がなされていない。

(3) よって、右招集通知は商法二四五条二項に違反する。

(三)  商法二三七条の三第一項違反

(1) 本件総会において、原告西村光雄(以下「原告西村」という。)は、第一決議に関して質問をし、貸切バス事業部門はタクシー事業と並ぶ被告の主な営業部門であり、不動産、営業権等の正当な評価も必要てあるから、株主として貸切バス事業の営業譲渡の適、不適を判断するため、譲渡される資産、負債、物件及び譲渡の対価の明示を求めた。

(2) これに対し、被告は、取締役である訴外中西正勝(以下「中西」という。)が、前年昭和五八年三月時点では税法上の価格として七〇〇〇ないし八〇〇〇万円という数字を得たことがある旨説明したのみで、それ以上の説明を拒否し、決議を強行した。

(3) 審議事項の重要性に鑑みると、右説明は原告中西の質問に答えたとはいえず、少くとも極めて不十分であって、商法二三七条ノ三第一項に違反する。

(四)  商法二三二条二項違反

(1) 被告の発した昭和五九年六月八日付け本件総会の招集通知には、第一決議に関し会議の目的事項として「第三号議案・貸切バス営業権(一般貸切旅客自動車運送事業)全部の譲渡に関する件。」と記載されている。

(2) しかるに、第一決議は、貸切バス営業権だけでなく、貸切バス営業全部の譲渡を承認する旨決議したものである。

(3) そうすると、第一決議は、招集通知に会議の目的として記載されていない事項について決議がなされたことになり、商法二三二条二項に違反する。

(五)  商法二四七条一項三号の取消事由

(1) 本件営業譲渡においては、昭和六〇年五月末日までに新会社を設立し、同会社に貸切バス営業を譲渡すること、新会社の株式は、被告が五〇パーセントを、被告会社及び訴外株式会社は明星観光サービス(以下「明星観光サービス」という。)の役員が五〇パーセントをそれぞれ引き受けることを予定している。

(2) 被告会社の役員は代表取締役橋本等、同鈴木勇、取締役澤田留三郎、同中西正勝、同大岡馨、監査役大橋和男、同小松喬一郎であり、また、明星観光サービスの役員は代表取締役橋本等、同鈴木勇、取締役吉岡武文、同中西正勝、監査役大橋和男(以下の者につき、以下、姓だけで略称する。)である。右のうち、橋本と鈴木は各一万三五二三株、澤田は二四五六株、中西は三三〇〇株、大岡は八二三株、小松は五〇株の各株式を有する被告会社の株主であり、かつ、被告から貸切バス営業譲渡を受ける新会社の株式を引き受ける者であるから、第一決議について特別利害関係を有する株主である。

(3)(ア) 被告は、タクシー事業と貸切バス事業を主たる目的とする会社であるが、貸切バス事業部門は四一台のバスを有し二〇年の歴史を有するバス業界の中堅であって、タクシー事業部門より収益率が高く、タクシー事業部門の収益の乏しさ、赤字を、貸切バス事業部門の収益で補ってきた関係にある。

(イ) したがって、収益力の高い貸切バス事業を譲渡することは、被告に著しい不利益をもたらすものであり、何ら合理性がなく、他方、前記橋本、鈴木ら六名は新会社の株式を引き受けることにより利益を受けるのであって、本件決議は著しく不当なものである。

(4) 前記橋本、鈴木ら六名は、第一決議につき議決権を行使し賛成したが、これがため右の通り著しく不当な決議がなされたものである。

(5) よって、第一決議は商法二四七条一項三号に該当する。

以上により、原告らは、被告に対し、第一、第二決議の取消しを求める。

二、被告の本案前の主張

1. 原告西村が所有していた被告の一万三〇八二株の株式は、訴外エムケイ株式会社(代表取締役青木定雄、以下「MK」という。)が昭和五三年八月四日、京都地方裁判所昭和五三年(執イ)第七三八号競売事件において、競落してその株券の引渡しを受けた。

2. 原告西村及び同北村豊藏(以下「原告北村」という。)以外の原審原告らは、昭和五九年七月頃、いずれもその所有する被告会社の株式全部を、原告北村に売却してその株券を引き渡した。

3. 原告北村は、その後、右により取得した株式全部と自己が従来から所有する被告会社の株式全部を、MK又は前記青木定雄に売却してその株券を引き渡した。

よって、原告らはすべて、既に被告会社の株主ではないので本訴の原告適格を有せず、本件訴えはいずれも却下されるべきである。

三、被告の本案前の主張に対する原告らの答弁

1. 被告は、定款をもって、株式の譲渡制限をしている。すなわち、被告は、昭和四一年の商法改正に伴い、昭和四三年七月四日に定款を変更し、株式の譲渡には取締役会の承認を要する旨の規定を設け、同年八月二日にその旨の登記をしている。そして、原告らの株式譲渡について、被告会社取締役会の承認は一切ない。

定款による株式の譲渡制限がある場合、取締役の承認のない株式の譲渡は会社に対しては無効であり、会社は従前の株主を株主として扱わねばならないから、本訴でも、被告は原告らを株主として扱わねばならない。

2. なお、原告西村と被告間では、最高裁判所昭和六一年(オ)第九六五号株主地位確認等請求上告事件につき、昭和六三年三月一五日、「上告人(原告西村)が被上告人(被告)の株式一万三〇八二株を有する株主であることを確認する。」旨の判決が言い渡され、確定した。右判決の事実審口頭弁論終結時は昭和六一年五月七日であるから、それ以前の、原告西村の株式競売を被告が主張するのは、右判決の既判力によって遮断される。

四、請求原因に対する認否

1. 請求原因1のうち、(一)の事実は否認し、その余の事実は認める。

原告西村が昭和五三年八月三日まで、同原告以外の原告らが昭和五九年六月まで被告会社の株主であったことは認めるが、二記載のとおり既に株主ではない。

2. 同2の各事実は認める。

3. 同3本文の事実は否認する。

(一)  同3(一)のうち、(1)の事実は否認し、(2)は争う。招集通知の発信日は、昭和五九年六月七日である。

(二)  同3(二)のうち(1)の事実は認め、(2)の事実は否認し、(3)は争う。

(三)  同3(三)のうち、(1)の事実を認め、(2)の事実を否認し、(3)は争う。

(四)  同3(四)のうち、(1)、(2)の事実を認め、(3)は争う。

招集通知内容と第一決議内容は同一である。

(五)  同3(五)のうち、(1)、(2)の事実は明らかに争わず、(3)(ア)、(4)の事実は否認し、(3)(イ)、(5)は争う。

貸切バス事業を譲渡することによる利益不利益は、譲渡契約の内容、譲渡対策の資産内容及びその価格等総合的な評価によって判断されるべきであり、譲渡事業部門の収益力によってのみ評価されるべきではない。

五、抗弁

1. 請求原因3(一)に対して、裁量棄却の抗弁

(一)  本件総会にて、被告は原告らより、招集手続期間について瑕疵を問われたことはなく、原告らは、自ら手続上の瑕疵なき総会と認めた上、本件総会で十分に質疑、討論を尽くした後、決議に参加した。

よって、原告らが本件総会に出席して質問発言し、必要な情報を入手するについて、株主の利益が害された事実はなく、招集手続期間の瑕疵があるとしても重大ではない。

(二)  本件総会の出席者株式総数は、発行済株式総数七万株に対し、六万七六一一株(二九名)であり、そのうち五万一三〇〇株(二七名)の賛成、一万六三一一株(二名、原告西村及び同辰巳行正)の反対で、第一、第二決議案は可決されたのであり、本件総会の議事の経過等に照らしても、招集手続期間の瑕疵が決議の結果に影響を及ぼすものとは到底認められない。

2. 請求原因3(二)に対して、裁量棄却の抗弁

(一)  第一決議は、将来の設立予定の新会社に対し営業の一部を譲渡するための決議であり、譲渡契約の内容、譲渡対象の資産内容、その価格及び譲渡相手先の概要については浮動的たらざるを得ず、議案の要領として確定的な数字等を記載し得ないものであるから、その記載を欠いても瑕疵が重大とはいえない。

(二)  被告は、各株主に、第二六期営業報告書、同期財務諸表及び同期事業部門別付属明細表を同封送付しており、これらの書類により、株主は、譲渡理由、被告会社の最近営業年度の損益状況等は、十分把握出来るものであり、株主としては、事実上これらの書類が議案の要領に該ることを容易に了知し得るものであり、招集通知に議案の要領を欠いたとしても決議の結果に影響を及ぼすものとは認められない。

3. 請求原因3(三)に対し、正当事由の抗弁

原告西村の質問に対しては、調査が必要であり、被告はその理由を示し、説明を拒否したもので、拒否に正当事由がある。

4. 請求原因3(一)ないし(五)に対し、株主権濫用の抗弁

被告会社と競争関係にあるMKは、京都市におけるタクシー業界の市場支配を企図し、被告会社元代表取締役ないし元社員であった原告北村、同西村、同辰巳行正及び同西村善四郎らを不当に誘引、強制するなどの手段でかいらい化し、それらの人物を介して、他の被告会社の株主や役員の保有株式を不当に買収したり、買収工作を試みたりするなど、被告会社の乗っ取りを企てているのであり、本件訴訟もその一環である。一方、右乗っ取りが完成されれば、関西駐留軍労働組合の発展的事業として集団指導体制下で会社運営を行うという被告の設立精神、ハイヤータクシー産業で自由化政策をとるMKに反対する被告の経営方針など被告の正当な利益が著しく害されることになる。

よって、本訴はMKの被告会社乗っ取り作戦の一環として株主権の濫用目的があり、原告ら株主には利益が少なく被告に著しい不利益があるという株主権濫用の事実もあるから、本訴請求は株主権の濫用として許されない。

六、抗弁に対する認否

1. 抗弁1の各事実は否認する。

招集通知期間の重要性を考えると、裁量棄却すべきでない。

2. 抗弁2の各事実は否認する。

瑕疵は重大であり、決議に対する影響も大である。

3. 抗弁3の事実は否認する。

第一決議案では、内容が全く決まらない状態で議題としたことに誤りがあり、調査必要を理由に説明を拒否できず、結局拒否の正当事由は存在しない。

4. 抗弁4の事実は否認する。

貸切バス事業部門を被告会社から分離することにより、利益を受けるのは被告会社の役員らであり、その犠牲となって不利益を受けるのは原告ら一般株主である。

よって、原告らが本訴を提起したのは、あくまで被告会社の役員らによる自己の利益を図る策謀、仕掛けに対する防衛的行動である。

第三、証拠〈略〉

理由

一、まず、原告らの原告適格につき判断する。

1. 商法二四七条は、株主総会決議取消しの提訴者の一人として株主を掲げているが、その趣旨は、株主が株式会社の実質的所有者であり、株主総会決議により自らの権利を処分される立場にあるから、自らの利益を守るため総会の決議の瑕疵を主張しうるというにある。

そうすると、総会決議がなされ、提訴し、口頭弁論が終結するまで、自らの利益を守る必要がある者のみ、同条の「株主」と認められるべきであるから「株主」たる地位は、総会決議の時から口頭弁論終結時まで必要である。

2. ところで、原告らのうち、原告西村が昭和五三年八月三日まで被告会社の株主であったこと、及び同原告以外の原告らが昭和五九年六月まで被告会社の株主であったことは、当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない乙第二、第八一、第八二号証によれば、被告会社には昭和四三年七月一四日以降、定款による株式譲渡制限があり、株式の譲渡には取締役会の承認が必要であることが認められる。

3. 被告は、原告らの株式は、競売ないし売却により第三者に譲渡され、株券の引渡しもなされたから原告らは株主の地位を失ったので、本訴を提起し追行する適格がない、旨主張する。しかしながら、右のような株式の譲渡制限の定めがおかれている場合に、取締役会の承認をえないでされた株式の譲渡は、譲渡の当事者間においては有効であるが、会社に対する関係では効力を生じないと解すべきであり、会社は、右譲渡人を株主として取り扱う義務があり、その反面として、譲渡人は、会社に対してはなお株主の地位を有するというべきである(最高裁昭和六一年(オ)第九六五号同六三年三月一五日第三小法廷判決参照)。そして、原告らが株式を譲渡したことについて、被告の取締役会の承認があったことの主張立証のない本件においては、被告は、原告らが被告会社の株主であったことが争いのない前記の時期以後も、原告らを株主として扱わねばならないというべきである。

4. 以上によれば、原告らは本件総会から本件口頭弁論終結時まで被告会社の株主であったことになるから、本訴の原告適格が認められ、本件訴えは適法ということができる。

二、次に、請求原因について判断する。

1. 請求原因1のうち、(一)の事実は前記一により認めることができ、(二)の事実は、当事者間に争いがない。

2. 同2の各事実は当事者間に争いがない。

3.(一) 同3(一)(1)の事実につき判断するに、活字部分については成立に争いがなく、その余の部分は原告北村豊藏本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一号証及び成立に争いのない甲第二号証によれば、本件総会の招集通知書の日付及び同書を郵送した封筒の消印は、いずれも昭和五九年六月八日になっていることが認められる。しかしながら、証人中西正勝の証言、成立に争いのない乙第八七号証の二によれば、右招集通知書には発送日ではなく到達予定日を日付として入れるのが被告の方針であったこと、右通知書の発送担当者である中西は発送日を昭和五九年六月七日と決めていたこと、ところが右通知書に同封する営業報告書の印刷が遅れ、同報告書は同日午後五時ごろ被告会社本店に到達したこと、そこで、被告会社従業員である訴外細見志津代は、発送準備作業を同日午後五時半頃まで行い、完了した後、帰宅途中、同日午後六時頃までに、左京区一乗寺郵便局前の郵便ポストに通知書等在中の封筒を投函したことが認められ、以上の事実に照らせば、前記招集通知書の日付及び封筒の消印日から、招集通知書の発送日が昭和五九年六月八日であることを推認することはできず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

よって、本件総会の招集通知が商法二三二条一項に違反するとはいえない。

(二) 同3(二)のうち、(1)の事実は当事者間に争いがなく、(2)の事実は、前記甲第一号証により認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右によれば、本件総会招集通知は商法二四五条二項に違反する。

(三) 同3(三)のうち、(1)の事実は当事者間に争いがなく、(2)の事実につき判断する。

原告北村豊藏本人尋問の結果及びそれにより真正に成立したものと認められる甲第三号証、証人中西正勝の証言及びそれにより真正に成立したものと認められる乙第三号証、第六号証並びに弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第七二号証によれば、本件総会において原告西村の質問に先立ち、被告会社代表取締役橋本が三〇分程第一決議案の提案説明をしたこと、その提案説明の中で、同人はバス事業を分離する理由としてバス及びタクシー事業の規制緩和が進む中、競争激化を乗り切るためには、小回りのきく厳しい経営体質が必要である旨説明したこと、同じく、バス事業を分離する具体策として、〈1〉昭和六〇年五月末頃迄に新会社(仮称、明星観光バス株式会社、資本金五〇〇〇万円)の設立を図る、〈2〉新会社の設立発起人には被告会社及び明星観光サービスの取締役・監査役が入る。〈3〉新会社の設立に対し、被告は資本金の五〇パーセント以上の額を出資する、〈4〉被告は新会社に、貸切バス免許、所有する貸切バス車両、バス車庫設備等、関連する全部について譲渡する(〈4〉が第一決議案)、〈5〉バス営業権の評価は税法に従って算出すると約八〇〇〇万円程度であるが、その他の資産の譲渡価格の決定もあり、新会社設立と資産譲渡に関するプロジェクトチームを編成し、その中で検討する、旨の説明がなされたこと、原告西村の質問に対しては、被告会社常務取締役である中西が応答に立ち、税法上営業権の価格は七〇〇〇万ないし八〇〇〇万円が妥当である旨説明したこと、右中西は営業権以外の譲渡財産については価格を明示して説明しなかったこと、しかしながら、本件総会に先立ち被告会社株主に送付された本件総会通知書には、財務諸表(被告会社第二六期、昭和五八年四月一日から同五九年三月三一日までの分)が添付され、その中の「V部門別貸借対照表」欄に観光部(バス事業部)の資産、負債内容が詳細に記載されていたこと、バス事業の譲渡については、過去の近畿地方の事例ではバス営業権以外の資産は簿価でなされており、バス営業権の評価が難しいと考えられていたことが認められる。

右認定事実によれば、原告西村の質問がある前に、株主である原告らは、バス事業の譲渡の趣旨・具体案を知り、それと被告会社第二六期財務諸表を見て考え合せれば、譲渡される予定の資産、負債、物件の概略を理解しうる立場に在ったのであり、譲渡の対価についても原告西村の質問の前後を通じて、橋本、中西から、最も算定が困難と考えられていたバス営業権の評価額とその根拠の説明を受けており、さらに、バス営業権以外の資産評価についても、橋本からその対策について説明を受けているのであるから(前記〈5〉の説明)、第一決議案につき賛否をするにつき、情報不足であったとはいえず、結局被告会社取締役の説明が不十分であったとはいえない。

よって、被告会社取締役の説明が商法二三七条ノ三第一項に違反するとはいえない。

(四) 同3(四)のうち、(1)、(2)の事実は当事者間に争いがない。

そこで、招集通知内容と第一決議の内容の同一性につき検討するに、「営業権」と「営業」という文言だけからみれば、両者は異るかにみえる。しかし、前記甲第一号証によれば、招集通知の第三号議案の貸切バス「営業権」の記載の下には、(一般貸切旅客自動車運送事業)との記載があり、「事業権」という表現は使っていないことが認められ、また、前記乙第三号証によれば、招集通知書に同封された被告会社第二六期営業報告書(昭和五八年四月一日より昭和五九年三月三一日までの分)には経営再建と中期経営計画の内容として被告より貸切バス事業部を完全分離して別々の法人(タクシー会社・貸切バス会社)にて経営基盤を確立して将来の明星グループの存続発展を図る旨の記載があることが認められる。以上を総合すると、原告ら株主にとっては招集通知の「営業権」は「営業」の意味であることは容易に知りうるものというべきであり、招集通知内容と第一決議内容が異るとはいえない。

よって、第一決議は、商法二三二条二項に違反するとはいえない。

(五) 同3(五)のうち、(1)(2)の事実は被告において明らかに争わないから自白したものとみなすべく、(3)につき判断する。

(3)(ア)の事実は前記乙第三号証、成立に争いのない甲第八、第九号証、証人中西正勝の証言及び原告北村豊藏本人尋問の結果により、これを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(3)(イ)につき検討するに、商法二四七条一項三号の決議が営業譲渡である場合、営業が一定の企業目的のために存在する総括的な財産の組織体である以上、「著しく不当なる決議」であるか否かは、単に営業の収益率だけでなく、営業の内容をなす資産内容及びその価格の他、営業譲渡の目的、経営に対する影響等各種要素を総合的に評価して決定しなければならないというべきであり、この点で被告の主張は肯ける。

そこで、本件についてこれをみるに、前記認定事実によれば、タクシー事業部門よりバス事業部門の方が収益率は高いが、その一方で、前記各証拠によれば、タクシー事業部門には京都市左京区内の被告会社本社土地建物が含まれているのに対し、バス事業部門の方は車庫予定地として買収中の城陽市の土地が主で、固定資産の実質に顕著な差があること、負債の資産に対する比率もバス事業部門の方が高いこと、バス事業部門も赤字になる年度があること、営業譲渡の目的が、タクシー及びバスの各事業部門を分離し、もたれ合いの状況をなくし両者共経営基盤を強化するという合理的なものであったことが認められ、以上を総合すると、第一決議の内容をなす営業譲渡が株主に対して「著しく不当」なものとは即断できない。

よって、他の事実を判断するまでもなく、第一決議が商法二四七条一項三号に該当するとはいえない。

三、請求原因3のうち、(二)が認められるので、抗弁2につき判断する。

1. 前記甲第八号証、成立に争いのない甲第五、第六号証、乙第四六号証の二、三、書き込み部分については原告北村豊藏本人尋問の結果により真正に成立したものと認められ、その余の部分は成立に争いのない甲第四号証、同原告本人尋問の結果によれば、本件総会の招集通知より前から、被告会社経営陣が貸切バス事業を独立させる方針であることを被告株主らは知りうる立場にあったことが認められ、それと前記甲第一号証、乙第三号証の記載内容及びそれらの文書を株主らが受領したことは前記説示のとおりであるから、これらを考え合わせると、株主らは本件総会で橋本の説明を受けた後ほどではないにしても、譲渡される予定の資産、負債、物件の概略を理解しうる立場にあったと考えられる。さらに、前記二3(三)で認定した橋本の説明から判断できるように、バス事業分離の計画は将来のものであり、本件総会の招集通知までには計画の細部まで決めえないものであった。

右のような株主らの了知可能性及び計画の不確実性からすれば、議案の要領を招集通知に記載しなかったことは、重大でない手続上の瑕疵といえる。

2. 前記甲第三号証、乙第六号証及び証人中西正勝の証言によれば、本件総会で招集通知に議案の要領が記載されていなかったことにつき、株主らから何の疑問も出されなかったこと、本件総会には株主三八名(七万株)のうち、二九名(六万七六一一株)が参加し、そのうち二七名(五名一三〇〇株、出席株式数の約七六パーセント、総株式数の約七三パーセントに該当する。)が第一決議案に賛成したことが認められる。

右事実によれば、株主らは招集通知に議案の要領が記載されていなかったことに関心をもっていなかったといえ、また、前記二3(三)及び三1で述べた株主の了知可能性、橋本・中西の説明内容を考え合せると、招集通知に議案の要領が記載されていたとしても結論は変らなかったといえる。

よって、議案の要領を招集通知に記載しなかった瑕疵は、重大ではなく、決議に影響を及ぼさないものと認められる。

3. したがって、商法二五一条を適用して、請求原因3(二)の取消事由に基づく決議取消請求は棄却することとする。

四、結論

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告らの本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

株主明細表(一)〈略〉

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